顎関節と顎運動  
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下顎運動の生体力学的考察                
The Swing of The Jaw
                                       岸上 尚司
                                       岸上歯科・矯正歯科医院

CO、CR、とかの難解な咬合理論を離れ、下顎運動を生体力学的に考えた。
少しお付き合い願えれば幸いである。

最近、私はゴルフをしている。自分のSwing についても、色々と考える。
それを、咬合というものを照らし合わせた。
ゴルフの調子が悪く、ゴルフ雑誌を読んでいると、プロのショットの連続分解写真が載ってい
た。それをじっくり見ていると、ある事に気が付いた。

ゴルフのアドレス(ボ−ルを打つ前の構え)とインパクト(ボ−ルを打つ瞬間)は同じ形だと言わ
れるが、同じなのはクラブフェースの向きだけである。
特に、腰の向きが違う。アドレスの時は、腰は飛球線に対して平行であるが、インパクトの瞬間
は、打球方向に対してかなり開いている。
これは、野球でも同じである。バットにボールが当たる瞬間、バッターの腰はかなり開く。
テニスでも同様である。

何故?
アドレスの時は、ただクラブを持って支えているだけであるが、インパクトの時はクラブを力強く
振っている。 この違いであろう。
私なりの見解は、「使用筋肉の違い、同じ筋肉でも使用量の違い」と思う。 

これを、咬合に当てはめてみる。
下顎を動かす運動には、
咀嚼
嚥下
発語
表情
食いしばり、歯ぎしり、
あくび、くしゃみ等がある。

下顎を動かす筋肉、下顎の開閉に携わる筋肉を大きく分けると開口筋、閉口筋に別れる。
開口筋は、
顎舌骨筋
顎二腹筋
外側翼突筋

閉口筋には、
咬筋
側頭筋
内側翼突筋
頬骨下頭筋、等がある。

いろいろな下顎の運動をするには、それぞれ異なった筋肉を使用する。
同じ筋肉を使ったとしても、使用量が違う場合が多い。
ということは、上顎に対する下顎の位置も当然違ってくる
柔らかい物を咬む位置と硬い物を咬む位置とでも、違うはずである。
体の姿勢によっても、重力により下顎骨を支える筋肉が異なり、下顎の位置も当然違ってくる
はずである。この運動をすれば、この筋肉を使うというのは、ここでは必要ないので割愛させて
いただく。

下顎の位置を運動別に大きく三点に分けてみた。
@ ポイント1.(図)ごく普通に下顎を上顎に軽くタッチさせた状態。使用筋肉は閉口筋の中の、
下顎を移動させる筋肉群を使っている。 
この位置がズレている状態では、
精神的に落ち着かない

A ポイント2.何かを食べている状態。使用筋肉は閉、開口筋。いわゆる咀嚼筋肉群。 
下顎の位置はポイント1.よりやや後方にある。 
ズレている状態では、
うまく咬めない

B ポイント3.(図)思い切り食いしばり、咬んだ時の状態。使用筋肉はポイント1.と同じである
が、閉口筋群をFullに使った状態。 下顎の位置はポイント2.より遠心位にある。
 
ズレている状態では、
力をだせない

ポイント1,2,3,と序々に下顎が後方に移動してくる。  K-1.K-2.K-3.pointと命名した。
これは前記のごとく、使用筋肉、使用筋肉量が違うことにより上顎に対する下顎の位置が
微妙に違ってくるためである。

軍隊の映画で上官が、部下を殴る前に、『歯を食いしばれ、アゴを引け』と、どなる。
しかし、歯を食いしばると、下顎は自然と引けるのである。−−ポイント3.K-3

上記3点を検討、調整していきますが、その内最も重要な点は、ポイントは 3. K-3である。 
何故なら筋肉の『力量』が最も大きく、このポイントのバランスがズレていると、顎関節に対して
異常な力を伝達してしまうからである。


身近な例を挙げますと、就寝時の食いしばり、歯ぎしりをした次の日の朝の開口不能状態。
硬いフランスパンを食べた、水泳で競泳をした、思い切り走った、重い物を長時間を持った、等。
その様な後に、顎関節症を発症する場合がよくある。これは、関連筋肉の使用量が多かったこ
とにより、顎関節にかかる力が大きく、障害をもたらしやすいため、と考えます。


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次に、どの様に下顎が上顎に入っていけばよいのか? ---Final approach
私のゴルフの友人からあるヒントを得た。
彼は、私と同歳で外資系銀行の支店長。英語、仏語堪能であり、米国の事業用飛行機操縦資
格所持のパイロットでもある。(2004年現在、グアム島にてゴルフ場の経営、島の空を飛び、ダ
イビングとゴルフのプロを目指しているそうな)

ライセンスを取るには? 訓練は?等、色々訊いてみた。
離着陸の訓練を能率化させるために、"Touch and Go" と呼ばれるものがあるそうである。
着陸するやいなや、離陸するという訓練である。
これを聞いた瞬間に閃いた。これが『咬合と同じ』だ、と。

着陸するには、3次元的に適正な高度、水平的バランスが必要である。
例えば、滑走路への進入高度が高過ぎたり、低過ぎたりすれば滑走路に着陸できない。
高度が適正であっても、機体が水平的に傾き過ぎた場合、着陸できない。
そのような時には、機長あるいは管制塔の指示で着陸回避 「Go Around」 となる。
3次元的バランスの悪さを持って着陸すると、体勢を一旦立て直しそれから離陸という
事になる。うまくいかなければ、滑走路が足りなくなる恐れもある。
ちなみに、操縦訓練の大半は、この「T&G」 とエンジン停止等の緊急事態対処の訓練とのこ
と。

これを、咬合に置き換えてみると、前記したポイント1,2,3,で下顎臼歯部が上顎臼歯部に
左右同時にバランス良く着陸すればよいことになる。

うまく着陸しようとすれば、必然的に適正な飛行ル−ト (咬合の場合は適正な下顎運動の軌道
) を通過しなければならない。


幼年期には順応力があり多少のバランスの悪さはカバ−できるが、成年期になってくると、
バランスの悪さがストレスとなり、耳鳴り、頭痛、肩こり、就寝時の歯ぎしり、等を発症する。
そこが成人矯正治療の難しさでもある。

下顎骨は、よく体のバランサ−といわれているが、人体骨格標本を正面から見たとき、人体
「正中線をまたがり動く骨」(命名者 岸上 尚司) は、下顎骨だけであり、これが傾くと、首、
背骨が傾いてくるのは当然である、と考える。
 Evidence

小さな飛行機において、左右一対の車輪が左右同時に着陸すれば飛行機の傾きが少なく、
車輪を支えるショックアブソ−バ−(人体の場合は顎関節)に対する衝撃も少ない。
しかし、車輪の数が多くなれば、すべて同時に着陸するのは難しい。
ジャンボ機が着陸するのをみればわかるとおもいます。多くの車輪のなかで、まず何処かのタ
イヤが接触し、次に接触に移行し、最終的に滑走路との接触になります。(よく観察す
ると、上手く対処ができるよう車輪軸に細工されています)
これをするがため、神様は人間の歯に咬頭というものを与えたのでは?

矯正治療の場合、Full Bands という technique をよく使用するが、上下歯列共一本の連続し
た wire を装着することにより歯列が平面化される。
前記した様に、接触点が増えれば増えるほど、左右同時に接触するのは難しくなる。
最も難しいのが、「面 対 面」の接触である。それが同時に上下接するのは、万に一の確率で
ある。
よって、最終段階での微妙な咬合調整が必要になってくる、と考える。

上記の様な考え方を述べたのは、世界中探しても私以外にはないとおもう。
既存の歯科学の本にはない、私自身の遊びから生まれた 『新咬合理論』 である。
しかし、この事をよく理解しておかないと、現代矯正歯科のワナにはまるであろう。

同じ車輪を長い期間使用していると減ってくる。もし、片側がパンクし、パンクしないよう片側だ
け金属製の車輪に換えた場合、減りかたが左右異なり機体が傾く。
経時的に歯牙の咬耗、摩耗が起こる。歯科治療で何か充填をしている場合、充填物の硬度
に応じて咬合調整の必要がある、と考える。


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それでは、どこに、着陸すればよいのか? ---Randing
もっとも重要なポイント3について。
私は、学生の頃からスキ−をしている。学生時代に検定を受けたことがあるが、今はどうか
知らないが、その中にジャンプ種目があった。
たかだか 5M.位しか飛ばないが、最初はたいへん恐怖感を感じた。雪なし県から来た者
にとっては、一番不得意種目である。初めは腰が引け転倒、次に突っ込み過ぎて転倒、何回
か転倒している内に上手く着地(着雪)出来るようになる。

ャンプ台は、スキ−場斜面中腹に設営され、着地面(ランディングバ−ン)は平地ではなく、
斜面である
ここに札幌の大倉山のジャンプ台(90 M級)の写真を載せる。
  
実際に見たことがあるが、人間によくこのような恐ろしい事が出来るものだと感心した。

TV.でジャンプ競技を観ているとK点越えの大ジャンプは、危険ということを耳にする、そして大
会役員は、それに応じて助走路の距離を短くする。これは風が良く、選手が飛び過ぎのため、
着地点が徐々に水平になっていくからである。
私が、幾度も着地失敗して転倒するも怪我をしなかったのは、この斜面のお陰である。
これは、力学ベクトルを考えてもらえばわかることである。 



ここで本題に戻るが、ポイント3においての対咬関係は「咬頭 対 斜面」にあった方がよい、と
考える。
上顎の臼歯咬頭が下顎臼歯咬頭頂の遠心側斜面に、下顎の臼歯咬頭が上顎臼歯咬頭頂の
近心側斜面に入っていかなければ(ポイント3図参照のこと)、と考える。この斜面により下顎
骨全体が、前方へ移動する。決して、ポイント3より下顎骨が後方に移動してはならない−−
顎関節破壊につながるので。

以上より、臼歯部に対し、力が大きくかかる垂直的なものを第一に確立し、次に側方運動時の
ガイドの設立、作業側、非作業側の確立等、
水平的な治療をするべきだと思う。

矯正歯科の場合、最終段階の咬合のチェックは大抵ポイント1.を基準にしている。
いわゆるアングルの分類Class 1の状態である。「咬頭 対 溝」 の状態である。
審美的にも美しいとされている咬合状態であるが、この状態は、前記のごとく下顎を「移動する
筋肉」使用時の位置である。ポイント1
機能的に良く咬める咬合とは、「良く咬める筋肉」使用時の状態、ポイント2,3もチェックする
必要がある。

そうすれば、将来起こるかもしれない咬合不全、顎関節症、等を未然に防ぐことができるであ
ろう。
  →顎運動と脳の関係

ただ、我々の仕事は、span が長く、次世代のDr.達の評価を仰がねばならない、と思う。
(ポイント1,3の図,歯の解剖学入門 赤井 三千男 編を参考にした。ポイント2は、ポイント1
と3の間に位置する)

私は、矯正歯科の認定医であるが、同時に一般治療もしている。治療しながら、咬頭−−何
故 このようにややこしい形をしているのか? 考えていた。

それは、神様が人間に与えた精密な咀嚼機構、しかも歯牙破折、顎関節破壊の
防御機構ではないのだろうか??






世界初 歯科用聴診器
The Forked Type Stethoscope

前項にて顎関節についても述べたが、簡単で安価でわかりやすい咬合診断器具はないものか
考えていた。
内科診断学(吉利 和 編)より、診断には、
 問診
 視診
 触診
 打診
 聴診がある。 ただし、歯科には嗅診もある。

この中で聴診というのに、目を付けた。
顎関節症は、
 〇  関節痛
  〇 開口障害
  〇 関節雑音 が三大徴候である。

 
関節雑音を聴き取るのに従来の医療用聴診器を使用しているのは周知の事実です。
しかし、聴診器の受音具を片側顎関節部に当てると、わずかに下顎が偏位する。
いかにしても同時に左右顎関節の発する音が聴けない

そこで私は、歯科用二又型聴診器を発明した。これは、私自身が作製した試作品(写真)であ
る。
写真のように構成された一対の受音具を持つ聴診器で左右の顎関節の発する音を聴診する
と、左右の音の違い、顎関節の動きが手に取る様にわかる。
いい関節音とはほとんど無音であるか、抽象的な言い方であるが、海の中に居る様な感じであ
る。

もちろん、歯科用電気聴診器を作れば、顎関節音をより聴きやすく、またその時の関節雑音を
保存すれば、治療前、治療後の違いが良くわかる、と考える。
現在顎関節に症状がなくても、潜在的に問題がありそうな患者を未然に防ぐ事が出来る。
近い将来、顎関節音による診断法ができるかもしれない。
歯科聴診学

市販する場合は、U字型、あるいはヘッドホン型にし、一対の受音具を顔面両側より均等な力
で挟み込む様にする。
左右両方の音。
右のみの音。
左のみの音。
を聴ける三方活栓様スイッチを付ける。(特許公報の図)

患者の顎関節を挟み込むため、受音具を支える必要がなくなり、術者の手がフリ−になる。
これは、予測外の用途であるが、缶詰内の気泡の有無を金属棒で打検する (名人になると内
容物の識別、異物の混入、缶の穴の有無、等が瞬時に分かる) と同様、ウ蝕による空洞の有
無や歯周病の悪化具合なりそうどを感知する目的で、従来よりピンセット等の柄で歯牙を打診している。

その時、術者はたいてい左手にミラ−、右手にピンセットを持っているので、従来の歯科診療
形態では、この打診音を聴診器で聴くという習慣がなかった。
ところが、本発明の歯科用二又型聴診器を使用すると、術者の両手が自由になり、聴診器を
使用しながら、打診ができる。その結果、聴診器を使用しない従来とは比較にならないほど、
微妙な違いを極めて明瞭に聴き分ける事が出来る。
歯科領域において、ごく基本的診断方法を開拓した、と考える。

本件は、日本で特許出願、審査請求を済ませ、すでに特許である。
特許に関する事項は以下の通りである。
  特許番号   3057487
  特許権者、発明者 岸上 尚司

色々とご助言ご指導頂いた 徳島大学歯学部 森山 啓司 教授、大阪市立大学工学部 青笹
正夫 教授、、平岡 龍人 理事長、川端 周平 氏(pilot)、奥野 兼三 氏(tennis)、磯崎 篤則 氏
(Prof. & tennis)、三島 隆一郎 医学博士、片木 久良 氏(特許数2) 、森本 健治 氏( pool &
人ホーム)、Bloemeke Robert、友人達に感謝申し上げる。

           JOP 2001年5月 掲載
                        パテントコンサルタント13-5 掲載



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