続 下顎運動解析
下顎運動 解析システムの紹介
大阪市 開業 岸上歯科・矯正歯科医院
岸上 尚司
Hisashi Kishigami
顎関節症の治療や、歯科矯正治療において、患者様に負担を掛けず、かつ正確に下顎運動
を計測できる装置の開発が望まれています。
このたび筆者は、簡単に下顎運動の軌跡をとれるシステムを開発しました。
より自然な状態で下顎運動を計測したい為、顔面にごく小さなマークを貼り、ビデオ撮影する
だけで、非常に簡単なものです。
私自身でソフトを作成した訳ではありませんが、使いやすく良い物と感じましたので、ここに
紹介させていただきます。
患者様には自身の下顎運動をVisual化することで、より納得していただけると思います。
●現在の状況
下顎運動解析装置においては、各所で研究され、多種市販されています。
しかし、患者様の頭に器具を被せ、歯牙に何らかの装置を付着させる必要があります。
この様な環境下で計測しても、自然な下顎運動軌跡は取れないだろうと考えていました。
何よりも見るからにその装置自体が、厳めしく、仰々しい姿です。
その多くの装置は、歯牙・歯列にこだわり過ぎとも感じます。
また、装置装着、情報収集にかなりの時間が必要です。
●開発の経緯
下顎運動解析装置は色々ありますが、装置の姿があまりに厳めしく何よりも『高価』です。
患者様に何か頭に装置を被ってもらっても、動きの邪魔になり、正確な軌跡は取れないので
は?と、考えていました。 そして何よりも邪魔をするのが、歯牙に何かを付けるということです。 これにより下顎の運動というのはかなり制限されてしまいます。
TVでサッカー選手のドリブルのフォーム、陸上選手の走行フォーム、の軌跡を追っている場面
があり、これにヒントを得ました。
しかし、調べるとこのソフト(3D モーションキャプチャー)はかなり高価であり断念しました。
次に市販されている一眼レフカメラ(デジタル)の連続撮影写真から何とかできないかと考えま
したが、できるにはできましたがパソコンの編集操作が非常に複雑になり、これは中断しまし た。
(写真 @ A)Photo Shopにて編集
マークを重ね合わせた(写真@) マークのみを抽出した(写真A)
しかし最近、良いソフトを見つけることができ、編集作業もたいそう簡単になりました。
以下に列記します。
●システム構築に必要な使用器材
家庭用ビデオカメラ(スイッチ操作のときにカメラがぶれないので、リモコン付が良い)、三脚、
小さな貼り付けマーク、パソコン(画像編集ソフトつき)、動画運動解析ソフトPV Studio 2D(株 LAB作成、販売 OAサイエンス 宮崎市) 以上のものが必要ですが、場所はとりませんし、器材はすべて家庭用です。
このモーションキャプチャーソフトは、3Dではないので、 安価です。
ビデオカメラについては、パソコン上で画像を見ることができれば、どの様な機種でも構いませ
ん。
●使用例
正面・側面 開閉運動、前後運動、左右の運動、咀嚼(ガム咬み)時の運動
これらの動き(運動軌跡)、がパソコン上で簡単に客観的、視覚的にわかります。
ビデオ撮影 風景(写真 B)
患者様の下顎頤部に小さなマークを貼る。最初、下口唇に貼ることを考えましたが、撮影中に
はがれ易いので、頤部に貼付しました。
下顎の動きの解析には、下口唇でも頤部でも同じです。
(写真 B)
↓
動画videoをパソコンに取り込み、動画運動解析ソフトPV Studio 2Dにて解析します。
↓
運動軌跡のついた動画Videoをパソコン上で見ます。
動画Videoの一コマが写真 Cです。
↓
画像編集ソフト(例えば、Photo Shop)に、この1画面を取り込みます。
(写真 C)
下顎運動軌跡部を抽出します(写真 D)
(写真 D)
咬合が正常な人は、きれいな直線運動で、開閉しますが、何か異常を持っている場合、
動きが直線にはなりません。
この写真 Dより、開口する時はきれいに直線上を通過しますが、閉口時にはかなり波打ち
ます。
咬合異常、顎関節症と診断されます。このように診断にも十分役立ちます。
開閉間距離の計測もできますが、重要なことは下顎の動きです。
実行してわかったことは、マークはごく小さなもの(2mm位)で十分です。
上口唇にもマークを貼付しましたが、全く不必要でした。
ただ、顎運動軌跡上にて往復で色を変えることができれば、尚良いのではと感じました。
以上、紹介ですが、術者、被験者共に楽で簡単に顎運動を計測できます。
この文献は、2006年11月1日にJOPに上梓されました。
"Motion capture" を利用したら?というものであったが、今その時より10年以上経過し、
世の中も進歩しました。
最近TVで、ゴルフ観戦していたら 『 トラックマン 』 という弾道解析器が出てきました。
瞬時に打球の軌道、着弾点、距離等が視覚化されます。
すばらしくいいものと感じました。
これを、下顎運動解析に利用したら? とおもいますが。
ただ、この器械の開発発想は、戦争時の砲弾の解析から始まったようです。
今、ほとんどの人が利用している Web.InterNet ですが、これも戦時中の通信網から発展して
います。 パラシュートは車のエアーバッグに変身しました。
戦争により工業技術は飛躍的に進歩するようですが、現在平和利用されて何よりと感じます。
岸上 尚司
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